【寄稿】日本の有事に機能する国外企業非依存型の医薬品流通体制を! 「儲からないのでやらない」。この時が“有事”である/ドイツ在住薬剤師・アッセンハイマー 慶子氏

【寄稿】日本の有事に機能する国外企業非依存型の医薬品流通体制を! 「儲からないのでやらない」。この時が“有事”である/ドイツ在住薬剤師・アッセンハイマー 慶子氏

【2022.09.29配信】ドイツ在住の薬剤師であるアッセンハイマー 慶子氏に医薬品の供給体制に関するご寄稿をいただいた。


国内医薬品流通に国外企業は必要か?

 某国外企業が日本の薬局関連事業に参入することを検討している記事を読んだ。国内における医薬品の安定・安全供給上、専門外の他業種に、それも国外企業に、利潤追求目的で日本の医薬品流通に関わることにはリスクがある。「儲かればやるけど儲からなければやりません」になるからだ。この“儲からない時”が有事である。有事の際、国内の薬局はコストがかさみ利益を犠牲にしてでも地域へ医療品を届ける必要がある。また、それができるのが国内の薬局である。地震や自然災害の多い日本で、有事に医薬品が不足したり流通網が機能しなくなったりすれば、国民の健康と命に関わる。医薬品なくして医療は成り立たず、人命が脅かされる。そして失われた命は戻ってこない。日本の有事に、国外企業は復興後の利権などの見返りなしに、利益を投げ捨ててまで日本を助けてくれるだろうか?

 報道によれば、ネットでつないだ提携薬局から処方薬を受け取って患者に配送する業務を請け、システム上で提携薬局から得た健康データの利用は服薬指導などにとどめるということだが、果たして、それだけが目的だとは思えない。オンライン診療・服薬指導に加え、日本では来年2023年度に電子処方箋が導入される中、このようなビジネスモデルが高度に進み、さらに調剤外部委託も許可されれば、日本の薬局から医薬品がなくなることを懸念する。薬局の最重要かつ基本業務は、医薬品の安定・安全供給と服薬指導などの医薬品情報提供である。

ドイツの薬局と医薬品供給体制

当国では、
・Fremdbesitzverbot(薬剤師以外の薬局開設禁止)
・Mehrbesitzverbot(1人の薬剤師による複数薬局の開設禁止)
・Dispensierrecht(薬剤師のみに調剤権)
の国内薬事関係法により、薬剤師しか薬局は開設できない。また開設者であるその薬剤師が責任者としてフルタイムで自局を経営・管理する義務がある。2004年の規制緩和で、本店による3店までの支店経営が可能になったが、それ以上のチェーン店展開は許可されていない。国民医療においては薬剤師にしか調剤権が認められておらず、医師といえども薬局を通さないと医薬品を入手できない。開業医院と病院の処方箋は全て院外へ出ることになっており、病院薬局は院内処方しか担当せず、外来患者の処方箋を扱ってはいけない法律で、完全な医薬分業である。

 2004年より医薬品のネット販売も解禁となったが、国内では既存の薬局しかネット販売許可が取得できないようになっており、医薬品の販売と服薬指導は薬局内で行わねばならない。ドイツでは医薬品に3つの分類があり、薬局でしか扱えない要処方箋医薬品とOTC医薬品、責任者がいれば量販店などでも販売可能な自由販売薬がある。自由販売薬のみは、薬局以外のネットショップでも販売が許可されている。

 現在、調剤外部委託や薬剤師のホームオフィスによるオンライン服薬指導は、ドイツでは認められていない。服薬指導の手段の1つとしてオンラインで行うことは許可されているが、薬局内で、そこに雇用されている薬剤師かその監督下の薬学スタッフが行う義務がある。コロナ禍中、医院や薬局へ行けない患者のために配達業務が強化されたが、配送担当者を雇い自分の薬局で行っているところがほとんどである。

 ドイツでは24時間医薬品供給体制を敷き、所属地区の全薬局が輪番制で時間外・週末業務を行う義務がある。規模の大小や大都市・地方、医院・病院からの距離といった立地条件に関わらず、全薬局が標準機能と標準在庫を持っており、その地域の需要に対応できる地域密着型かかりつけ薬局である。薬局に調剤薬局、ドラッグストアーという区別はなく、医薬品のみならず幅広く製品を扱い、1店で患者が必要なものが揃う仕組みになっている。なぜならば、各薬局へは、必要な製品のほぼ全てを提携医薬品卸が1日数回配送してくれるからである。当薬局は人口約4万人の町の平均規模薬局ではあるが、2社の医薬品卸と提携し、12時に1回、15~16時に2回、17~18時に2回、夜中に2回と7便の配送がある。地域住民がネット薬局を利用するのは、通常、価格のメリットがある場合のみである。

 薬事関係法は医薬品卸に、地域薬局の需要に合わせ、メーカーや製品の選り好みをせず、充分な量の品物を抱える義務を定めている。この医薬品卸のバックアップにより、各薬局どこからでも処方箋を受け付けることができ、ネット販売業者よりも早く地域住民に品物を提供している。この燃料価格高騰により医薬品卸は悲鳴をあげているが、配送回数を減らす話はない。薬局も医薬品卸も有事の際には医薬品の備蓄拠点として機能する準備があり、災害時には被災を免れた薬局と医薬品卸で地域への医薬品供給を担当するのである。

日本の薬局業務環境の不備をつく国外企業

 薬剤師がその職能をフルに発揮するには、薬局に品物が揃い、営業時間内に仕事も勉強も終了できる時間的余裕があり、服薬指導に必要な学術データバンクがレセコンに装備されており、薬剤師という職業と薬局を保護する制度が必要である。

 日本の薬局で行っている計数調剤や一包化には時間がかかり、薬剤師の負担を軽減するために外部委託業務が提案されているようだが、薬局関連業務参入を狙う企業の体の良い言い訳であり本末転倒である。薬局から医薬品を切り離すのは、医薬品の安定・安全供給上、大変危険である。ならば日本でも箱だし調剤の導入を真剣に検討してはどうか? 薬剤師の業務負担が少なくなり、患者の順番待ち時間も大幅に減るはずである。

 日本は薬局数が多く、医院にはまだ調剤部門を抱えているところもあり、医薬品卸は全部へ頻繁に医薬品を配送できないと聞く。また、医薬品卸によっては品揃えに偏りもあるそうだ。これでは各薬局に必要な医薬品や製品が効率的に集まらない。全医薬品卸が幅広く品物と量を抱えられるような備蓄兼物流拠点の建設援助や価格政策を行い、有事に困らない製薬企業→医薬品卸→薬局へのシンプルな物流体制を整えるべきではないか。患者へのラストワンマイルの配送も各薬局が責任を持って行うべきである。

 日本の薬局関連業務に参入希望の企業は、その流通網や物流ノウハウを生かし、薬局業務環境の不備を補うことで利益を得ることを考えているようだが、既に記述したように、医薬品流通を他業種や国外企業に委ねるのは医薬品の安定・安全供給上、大変危険である。

医薬分業の意味

 医療は非営利でという言葉がある。医薬品は必要だから患者が購入し、薬局も必要に応じて販売すべきである。欧州で「医薬分業」という勅令を発したのは、神聖ローマ帝国皇帝・シチリア王であったフリードリヒ2世で、1241年のことである。以後、この法律は医療の基本法として欧州に拡がっていった。その条文内容から、この法律の言わんとすることは、医師と薬剤師という職業をただ分離し独立させたということではなく、双方、医薬品を営利目的に利用してはならないとういうことである。

 薬局経営もビジネスであり充分な利益が出なければ、経営も仕事も楽しくなく、優秀なスタッフを抱え患者や顧客により良い製品やサービスを提供できない。しかし、利潤を追求するあまり有事に機能しない医薬品流通体制へと向かっていくことは阻止すべきである。関係者は常に危機感を持って日本の薬局と医薬品流通の在り方を見つめるべきである。

 関連各庁には、国民の健康と安全を優先し、日本における薬局・薬剤師の保護と業務環境の改善を是非検討していただきたい。日本も患者がメリットを感じる医薬分業にするのは、行政の役目である。

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