医師会城守氏「対面診療を行える体制を算定要件に」「地域医療の弱体化は患者のデメリットに」
日本医師会常任理事の城守国斗氏は、オンライン診療のあり方に関して、医療は対面が原則との主張を強調した。
「新型コロナウイルス感染症拡大下の臨時的特例、またオンライン診療の適切な実施に係る指針の改定も踏まえた上で、対面診療との関係を考慮しながら検討していくという方針は理解を致している。その上で、議論していく上で今後の議論の基本となる考え方を確認しておきたい。それは、医療は対面診療が原則であるということだ。これを共通認識として今後の議論を進めていくべきだろうと考える」(城守氏)と述べた。
その上で、対象患者については対面診療の過程で判断するものとした。「医療においてはいわゆる問診のみではなく、例えば触診によって熱感を感じる、関節の可動域の診察、採血、検査処置などオンラインでは到底行えないものが数多く存在している。検討の際にもオンライン診療を行うことのメリットやリスクを、対面診療の場合と比較しながら丁寧に検討して行く必要がある。例えば対象患者の算定要件や施設基準についてはオンライン診療は対面診療と比較して得られる情報が視覚や聴覚に限られているので、疾病の見落としや誤診を防ぐ必要があり、言い方を変えるとそれほど重症度の高くない人を対応とする。医師が対面診療している過程で、オンライン診療に移行しても大丈夫だろうという判断を経て実施するものである。医師が患者さんの心身の状態に関する適切な情報を得るためには定期的な対面診療を重ねるということが医療の安全確保のためには欠かせない要素である。特に精神医療などの特殊な領域ではオンライン診療が有効に機能するのかどうかというと、個別に慎重に見ていく必要がある」とした。
さらに対面の組み合わせを要件とすることを求めた。「指針を見直す検討会でも指摘されているように、オンライン診療は定期的な対面診療と適切に組み合わせて実施されるべきであり、対面診療が必要になった場合に備えてその医師が対面診療を行うことができる体制を確保しておくということを算定要件や施設基準において求めておくことが安全性の確保と言うためには欠かせない要素だ。対面診療を想定していないようなオンライン診療のみを行う医療機関は、医療の世界においてはあり得ないということを中医協としてもしっかりと共有して、要件を考えていくべきだ。これまでかかりつけ医のあり方について多くの議論がなされてきたが、オンライン診療だけしてそれ以外の診療は知りませんといった無責任な診療が跋扈するということや、地域でかかりつけ医機能を果している医師や診療所を、遠隔地から問診と診察の一部しか行わないオンライン診療で大きく変わってしまうということなどはええありえないし、あってはならない。こういった診療が安易に行われる、広がると、例えばいざという時に実際に直接診療できる場所がなくなったり、現存する医療提供体制に対して余計な負担となったり、地域医療の弱体化、ひいては崩壊させるリスクすらあるのは明白。これは患者さんにとって大変大きなデメリットとなる。こういった認識も中医協で共有すべきだ」とした。
オンライン診療を行う際の「医師の所在」については、「医療機関にいる場合とオンライン対面による視診とか問診を行う場合とを比較して、同じ程度に患者さんの心身の状態に関する情報やプライバシーの確保が得られる場面、場所で行うことが必要だ。例外的な対応に関しは別途検討でよいのではないか」とした。
医学管理料の扱いについては、「オンライン診療の対象となる管理料に包括される診療項目の内容に差があり、検査や処置、注射などを対面診療でしか実施し得ないものも含まれている管理料だ。従って対面診療との関係を考慮した上で評価の在り方について整理する必要があるのではないか」とした。
在宅医療におけるオンライン診療については、「あくまでも訪問して提供される医療であるとことを大前提とした上で、対面による様々な処置、検査などを組み合わせながら管理していく必要がある。在宅も定期的な訪問診療による対面診療と組み合わせて実施するのが基本だ。その評価についても対面で行われる訪問診療との比較を整理していくべきだ」と述べた。
オンライン服薬指導に関しては、「進めるにあたって特例を前例とせず、医療提供体制としてのオンライン診療と平仄を合わせる形で実施することが大前提である。対象疾患の選定や医薬品の取り扱いなどを慎重な検討をお願いしたい」とした。
薬剤師会・有澤氏「原則は対面」
日本薬剤師会常務理事の有澤賢二氏もオンライン服薬指導に関して、対面の重要性を強調した。
「患者さんの利便性等の観点からICTをうまく活用していくことは理解できる」とする一方で、「原則は対面。対面でのやりとりや薬局に来ていただくことの重要性は重々理解していただいていると思うので、指針を見直す改正案に則って整理をしていくことは理解する。特に改正方針にある服薬指導計画は一見、あり方が変わるように思われるかもしれないが、役割や果たす機能は担保されているものと思う。医療の質が担保されるよう利便性に特化した視点のみでなく、医療の質の担保を加えたバランス良い形で整理をしていくことが重要。整理を進めていくにあたっては、引き続きこのあたりのご配慮をお願いしたい」とした。
協会けんぽ・安藤氏「適切な評価のあり方を」
全国健康保険協会(協会けんぽ)理事長の安藤伸樹氏はオンライン診療に関して、「オンライン診療の適切な実施に関する方針の改正等を踏まえ、令和4年度診療報酬改定の基本方針に示された通り、患者ニーズを踏まえた適切な普及促進や安全性と信頼性の確保を前提とした適切な評価を進めていくべきであると考える。対象患者や算定要件、施設基準等の評価の在り方については、指針の改定等を踏まえ、その内容と整合的な形で見直しを検討する必要がある。情報通信機器を用いた場合の医学管理料については、初再診や医学管理料に係る評価について、対面診療との関係を充分に考慮し、安全性と信頼性の確保を前提とした上で対面診療と同等と評価できるのかどうかといった観点からも適切な評価の在り方を検討していくべきであると考える」とした。
連合・佐保氏「対面診療とバランスをとって推進を」
日本労働組合総連合会(連合)総合政策推進局長の佐保昌一氏はオンライン診療について、「対面診療とのバランスをとりながらの推進が必要と考えている」と述べた。その上で、「患者・被保険者の利便性よりも安全・安心をもたらすような仕組みづくりが必要だ。必要に応じて指針を見直すなど一定のルールの下に実施すべきである」とした。
経団連・眞田氏「他の医療機関との連携で対面診療の担保も」
日本経済団体連合会(経団連)社会保障委員会医療・介護改革部会部会長代理の眞田享氏はオンライン診療について、対面と診療報酬の差を縮めるべきとの意見を示した。
「コロナ禍を通じてオンライン診療のメリットを享受できた患者は少なからずいる。感染症拡大期にとどまらず適宜、適切な受診につながるという患者の利便性の向上などの観点も含め、安全性の確保を前提としながらオンライン診療を適切に普及促進させていくことは重要な課題である。その観点からオンライン診療の診療報酬が対面診療よりも低いことが主因となって普及が進まないということであれば対面と全く同じということは難しいかもしれないが対面とオンライン診療の間の違いについて管理料も含めてもう少し縮めるということは必要なことだと考えている」とした。
また算定要件については、緩和を求めた。「患者ニーズを踏まえた適切な普及を図る上では患者の安心安全を確保する措置を講ずることを条件としながら、緩和の方向で見直しを検討すべきだろうと考えている。現在の3ヶ月の対面診療実績、3ヶ月に一回の対面診療といった算定要件、対象患者の制限が30分という目安は不要ではないか。こうした要件緩和等を図る上で他の医療機関と連携した場合も含めて、患者の安心安全を確保するために必要な場合に対面診療を行う体制をあらかじめ作っておくということが前提だ。オンライン診療は各月1割以下と言うルールについては地域医療に与える影響も踏まえつつ撤廃の方向で検討すべきではないか。もちろんこうした要件を緩和する前提としては、当該医療機関の所属が明らかであり、現在のように施設基準の届出定例報告を求めることでオンライン診療の実施状況が確認・検証できることは必要である。あわせて地域医療への影響、医療費への影響、患者にとって安心安全な医療が行われているかの検証も必要だ」
オンライン服薬指導についても、「オンライン診療と同様にコロナ禍を通じて明らかになったメリットなども含めて極力、患者の利便性向上につながる形で普及させていくべきと考える。患者の安心安全の確保を前提としつつオンライン服薬指導の適切な普及促進に向けて前向きな検討お願いしたい」とした。
健保連・松本氏「事前の対面実績、定期的な対面診療を組み合わせて計画の策定は見直し必要」
健康保険組合連合会(健保連)理事の松本真人氏は、オンライン診療を推進していくべきとの考えを示した。「新型コロナウイルス感染症の教訓を活かしつつ患者にとって安心安全でかつ効果的な医療が提供されるという観点からは推進は非常に重要であるという認識を持っている。新型コロナウイルス感染症の拡大と特例的な対応、あるいはオンライン診療の適切な実施に関する指針の改定を踏まえ、オンライン診療を提供する業界が増加し効率的で利便性の高い医療を患者が享受できるように診療報酬を通じて適切な環境整備を推進していくべきだ」とした。
そのための方策として、報酬体系の見直しは必要とした。「推進のためには算定要件の具体的な見直しもあるが、通信料等の実費負担を含むトータルでの患者負担に充分配慮していただきオンライン診療について対面診療と同じ内容、同じレベルで実施される行為は医学管理料も含めて対面診療の違いを踏まえた適切な報酬体系を設定する必要がある」とした。
要件については「対象患者の管理料での縛り、あるいは事前の対面実績、定期的な対面診療を組み合わせて計画の策定など、いま示されている指針案とはかけ離れているので、これについては見直しが必要と考える。患者の同意があれば幅広く認める方向で指針とリンクする形で運用すべきだ。対象患者や処方については学会の整理に基づいて対応することが指針案でも推奨されており、実態が把握できるのであれば指針を準用することが現実的な対応である。ただ情報不足の中で受診や処方が不適切なケースが生じる懸念もある。これは医療費にも影響があるので、患者の受療行動も含めて実態を継続的に把握する仕組みが必要だ。さらに現行のオンライン患者を1割に制限するという基準に関しては、では何割ならいいんだという妥当な線引きについてはなかなか難しいテーマがあり、指針でも指摘されている通り対面診療と適切に組み合わせることは患者の安心安全にとっては重要であると思うので、施設基準の届出や定例報告により事後的にまあ検証していくということで整理していくこともできるのではないか。距離等に関する要件についても緊急時の対面診療が担保されているということが重要であると考える」とした。
医師の所在については、「医療機関以外での場所で診療を行うことが想定されており、指針で示された条件を報酬上で位置づけることができるのであれば指針を飛び越えて制限する必要もなく、事後的に検証できることが重要だ」とした。
医学管理料については、「問診でだけで足りるものもあれば処置や検査が包括されているものもあるので、基本的には医療内容が同等であるかどうかということ評価の在り方のポイントになる」とした。
医師会・城守氏「海外でも比率を制限していると聞く」
日本医師会の城守氏は、オンライン診療に関して、再び発言を求め、指針に準拠すべきとの意見を牽制した。
「検討会の指針に関しては、オンライン診療において最低限守るべき事項を記載している。ここは中医協の場であるので指針を踏まえつつ保険診療をしていく上においての対象疾患や算定要件、施設基準を決めていく。指針にこう書いてあるのでこれでいけるんですと言う話とはまた別だということをご理解いただきたい」と述べた。
その上で、「1号側から安心安全の確保をいう意見があったが、そのためにこの中医協の場で丁寧な議論をして対象疾患、施設要件、算定要件というものを設定してきた経緯がある。それをしっかり認識をしていただく必要があるのではないかと考える。残念ながらオンライン診療をビジネスチャンスと捉えている相手営利企業が多いということです。そのような営利企業に利するような視点で制度設計にしてはいけないと言う観点から冒頭の発言をさせていただいた。1割の条件を撤廃すべきとの意見も出たが、一度オンライン診療を推進したフランスやドイツでも、割合を2割ぐらいに押さえたと聞いている。オンライン診療によって医療体制が歪む懸念と聞いている。オンライン診療を全面的に否定してるわけではなく、適切に必要な人に届くようなシステムといことでこれまでも中医協でさまざまな要件を認めてきた」とした。
海外での状況に関する調査は検討されることになった。