通知「薬剤師の調剤応需義務等について」の内容は下記の通り。
■薬剤師の調剤応需義務等について
薬剤師法(昭和 35 年法律第 146 号)第 21 条において、「調剤に従事する薬剤師は、調剤の求めがあつた場合には、正当な理由がなければ、これを拒んではならない。」として規定される「調剤応需義務」は、医療の公共性や薬剤師による調剤の業務独占、生命・身体の救護という高い倫理観を背景として、国に対して負担する公法上の義務として定められてきたところである。
この調剤応需義務に関連して、「薬局業務運営ガイドラインについて」(平成5年4月 30 日付け薬発第 408 号厚生省薬務局長通知)等において、薬剤師への調剤の求めに対する対応に関する解釈を示してきたところであるが、従来の行政解釈では、正当な理由の範囲について、処方箋の内容に疑義があるが疑義照会できない場合、冠婚葬祭や急病等で薬剤師が不在の場合、早急に調剤薬を交付する必要があるが、医薬品の調達に時間を要する場合、災害や事故等により、物理的に調剤が不可能な場合のように、調剤の求めを拒否することが不当ではないような場合に限定されてきた。他方で、近年の社会情勢の変化や、深刻化するカスタマーハラスメントの問題に関連し、現場の薬剤師の業務に際して調剤応需義務に対する解釈について改めて整理の必要性があることが指摘されていた。
このため、「カスタマーハラスメント対応を含む薬剤師の調剤応需義務の体系的整理のための研究(令和7年度厚生労働行政推進調査事業費補助金)」(研究代表者:益山光一 東京薬科大学薬学部教授)において、調剤応需義務等の法的性質をはじめ、薬剤師への調剤の求めに対する適切な対応の在り方について検討を行い、報告書をとりまとめた。
今般、当該報告書の内容を踏まえ、薬剤師法第 21 条の法的性質を明確にするとともに、どのような場合に調剤等の求めに応じないことが正当化されるか否かについて、下記のとおり整理したので、これを御了知の上、貴管下関係者に対する周知徹底をお願いする。
なお、過去に発出された調剤応需義務に係る通知等において示された行政解釈と本通知の関係については、近年の社会情勢の変化等を踏まえて、調剤等の求めに対する薬剤師の適切な対応の在り方をあらためて整理するという本通知の趣旨に鑑み、今後は、基本的に本通知が妥当するものとする。
記
第1 基本的考え方
薬剤師法第 21 条に規定する「調剤応需義務」は、薬剤師が国に対して負担する公法上の義務であり、薬剤師の患者に対する私法上の義務ではないこと。
その上で、本通知においては、薬剤師法第 21 条に規定する調剤の応需義務について、正当な理由により調剤の求めを拒否できる場合の考え方を整理するとと
もに、調剤応需義務が認められたとしてもなお、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和 35 年法律第 145 号。以下「薬機法」という。)第9条の4に規定される調剤された薬剤の販売・授与に際しての情報提供及び指導等に関する義務との関係で、適正な使用を確保することができないと認められるために薬剤の販売・授与を拒否することが正当化される場合の考え方についても整理している。
薬剤師法上の「調剤」と併行して行われる患者情報の収集、情報の提供、薬学的知見に基づく指導及び薬剤の提供については、薬機法上の「薬剤の販売・授与」の枠組みで整理を行い、薬機法上必要な情報提供または服薬指導ができない場合や、その他医薬品の適正な使用を確保することができないと認められる場合には、調剤を応需したとしてもなお、薬剤の使用による保健衛生上の危害の発生及び拡大の防止の観点から当然に、当該薬剤の販売又は授与が禁止されることとなる(薬機法第9条の4第3項)。即ち薬剤師法の観点から調剤の求めには応じた場合であっても、適正な使用を確保することができないと認められる場合には、薬剤の提供が薬機法上の「薬剤の販売・授与」に関する義務の観点から当然に禁止される。
第2 調剤の求めを拒否できる判断の枠組み(薬剤師法第 21 条の「正当な理由」に該当するもの)
1 調剤の求めを拒否できる「正当な理由」の考え方
薬剤師業務における調剤の求めに応じないことが正当化されるかの判断基準については、調剤応需義務の範囲および安全な薬剤の提供の枠組みを踏まえ、個々の事例に応じた総合的な判断を基本とする。重要な考慮要素としては、患者についての緊急対応の要否(病状の深刻度)の他、調剤を求められた時間帯や患者と薬局・薬剤師の信頼関係が挙げられ、これらの要素を鑑みた上で、薬剤師が調剤の求めを拒否することが不当でないと認めるべき理由があるか否かを総合的に判断すること。なお、薬局における調剤業務の「緊急対応」とは急性期疾患への迅速な対応が中心的である。
特に、カスタマーハラスメントを含む患者と薬剤師の信頼関係については、以下の要素を照らし合わせて「正当な理由」を総合的に判断する。
(1)薬局におけるカスタマーハラスメントへの該当性
労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和 41 年法律第 132 号。以下「労働施策総合推進法」という。)に規定する職場におけるカスタマーハラスメントと同様の要件で、「顧客等の言動であって、その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害される」行為か否かで判断する。
(2)信頼関係の喪失の有無
第2の1(1)を踏まえ薬局におけるカスタマーハラスメントに該当した場合であっても、薬剤師による調剤の基礎となる患者との信頼関係が、迷惑行為の態様に照らして既に失われていると認められるか否かで判断する。(例:調剤行為そのものと関係ないクレーム等の迷惑行為が続き、警告書の発出や複数名での説得を行ったにもかかわらず、迷惑行為が継続又は改善されない場合等)
なお、信頼関係の喪失の有無の判断にあたって、精神疾患等の背景がある場合には、別途、医療機関や行政等との適切な確認・連携の上での判断が必要な場合もあり得る。
2 調剤の求めを拒否できる正当な理由として考えられる事例の整理
第2の1の考え方を踏まえ、客観的に社会通念上、調剤の求めを拒否できる正当な理由として具体的な事例を念頭に整理すると、次のとおりであること。ただし、以下の事例については例示であり、個々の事情を鑑みた上での総合的な判断を基本とすること。
(1)薬局におけるカスタマーハラスメント以外の拒否事由
調剤の求めを拒否することが認められる場合としては、以下のような場合が該当する。
① 以下のア~ウに該当する場合。なお、やむを得ず断る場合には、患者等にその理由をよく説明し、適切な調剤が受けられるよう措置すること。
また、処方箋に記載された医薬品がその薬局に備蓄されていないことを理由とした拒否は認められないものであること。
ア 物理的・身体的理由
病気、近親の不幸、冠婚葬祭等により薬剤師が不在である場合や災害や事故により物理的に調剤不能である場合。
イ 疑義照会が不可能な場合
処方箋の内容に疑いがあるが、処方医と連絡が取れず、疑義が解消されない場合。その疑義が解消された後でなければ、薬剤師は調剤の求めに応じてはならない。ただし、当該処方せんの患者がその薬局の近隣の患者の場合は処方せんを預かり、後刻処方医師に疑義照会して調剤すること。
ウ 早急な調剤が必要だが調達に時間を要する場合
患者の病状等から早急に調剤薬を交付する必要があるものの、当該薬局において医薬品の調達に時間を要する場合。ただし、この場合は、速やかに調剤が可能な薬局を当該薬局が責任をもって紹介すること。
② 流通管理制度に基づく拒否
流通管理が必要な薬剤(メチルフェニデート塩酸塩製剤等)において、処方医や薬局が事前に登録されたリストに掲載されていない場合。
③ 重複投薬等アラート等への対応
電子処方箋の重複投薬等チェックでアラートが出た場合や、お薬手帳により重複投薬等を把握して疑義照会を行ったが、処方変更がなされず、なお薬学的知識により客観的に疑わしいと判断される場合。
④ 開局時間外の対応
地域連携薬局等の休日及び夜間の調剤応需体制を講じることとされている薬局以外の薬局において、開局時間外に、緊急性のない処方箋の調剤を断り、翌開局時間内の来局を案内する場合。なお、開局時間外において調剤を行わない場合であっても、速やかに地域の休日及び夜間の調剤応需体制のある薬局または地域の夜間休日対応当番薬局を、責任をもって紹介することが望ましい。
⑤ 悪意ある未払い
過去の未払いが継続しており、再度未払いが発生する蓋然性が極めて高い場合や、支払い能力の確認のために被保険者情報の提示を求めたにも関わらず拒否する等により、支払いの意思が明らかに認められない場合。なお、「調剤応需拒否」には当たらないが、調剤後に生活困窮や一時的な所持金不足といった事情がなく、かつ高額薬剤である場合や、支払い担保を目的とする住所・連絡先の提示等に協力しない等、支払い能力の合理的な確認ができない状況が認められ、薬剤を販売、提供しない場合もある。ただし、こうした場合も含め、薬剤を提供しないことが患者の生命または身体に重大な影響を及ぼすおそれがあるなど、緊急性が高いと認められる場合には、未払いの状況を勘案し適切な対応を行うものとする。
(2)薬局におけるカスタマーハラスメント起因の拒否事由
① 調剤の求めの拒否が正当化される大きな判断要素となる患者行為の類型以下のような行為により、調剤の基礎となる信頼関係が破壊され、適切な医療提供が困難になったような場合に、調剤の求めの拒否が正当化される大きな判断要素となること。ただし、調剤内容や接遇に関する合理的な指摘、説明を求める行為、改善を求める意見など、患者からの要求内容が正当であり、手段・態様も社会通念上相当な範囲にとどまるものは、医療の質向上に資するものであり、当然ながら拒否の理由にはならない。
ア 暴力・威嚇行為
身体的な暴力、物を投げる、机を叩いて威嚇する、大声での恫喝、または脅迫的言動がある場合。
イ 暴言・人格否定
薬剤師に対し侮辱的または人格否定的な発言が繰り返される場合。
ウ 執拗な謝罪要求・拘束
土下座等の謝罪の強要や、数時間に及ぶ居座り、執拗な電話連絡などの長時間の拘束を強いられる場合。
エ 揚げ足取り・不当な追求
調剤内容と無関係なクレームを執拗に繰り返し、説明を尽くしても納得せず、言葉尻を捉えて責め立てる行為が行われる場合。
オ 単なる暴言等を超えて、明確に刑法(明治 40 年法律第 45 号)上の犯罪行為に該当するような行為。
② 調剤の求めの拒否に際して併せて考慮すべき要素
上記①の各判断要素に加えて、カスタマーハラスメントが発生しているようなケースにおいては付随して安全な薬局の業務運営に支障が生じ得ることから、調剤の基礎となる薬剤師と患者の信頼関係が破壊され、適切な医療提供が困難になったことを基礎づける事情となり得ることから、調剤の求めの拒否の正当な理由の検討に際しては併せて、以下の各要素も考慮すべきである。
ア 調剤ミスの誘発
患者の執拗な言動や威圧的な態度により、薬剤師が集中を削がれ、調剤過誤を誘発させる恐れがある場合。
イ 他患者の安全確保の妨げ
薬局内で騒ぐ等の行為により、他の患者のプライバシーや安全、静穏な環境が損なわれる場合。
第3 調剤された薬剤の販売・授与を拒否すべき判断の枠組み
1 薬剤の提供(販売・授与)をしてはならない判断の枠組み
「安全性・有効性の確保」を基本とし、患者からの情報の不提供や重複投薬の疑念等の薬剤師からの情報の提供や指導が適切に行えない理由があるか否かを総合的に判断することを基本とする。
これは薬機法第9条の4第1項から第3項並びに薬剤師法第 25 の2第1項及び第2項への該当性から、実質的に「調剤はしても薬剤を渡せない」という法的義務に基づく。
2 薬剤の提供(販売・授与)をしてはならないと考えられる事例の整理
第3の1の考え方を踏まえ、薬剤の販売・授与を拒否すべき理由として具体的な事例を念頭に整理すると、次のとおりであること。ただし、以下の事例については例示であり、個々の事情を鑑みた上での総合的な判断を基本とする。
ア 情報の不提供
患者が年齢、アレルギー情報及び他の薬剤の使用状況等に関する情報を提供することを一切拒否し、薬剤師の聞き取りにも一切応じず、薬剤師が薬剤の適正な使用の確保ができないと判断した場合。
イ 服薬指導の拒否
患者が薬剤師法及び薬機法で定められた薬剤師による必要な情報提供や薬学的知見に基づく指導を拒み、適正な使用の確保ができない場合。
ウ 重複投薬のチェックによる適正使用の確保
電子処方箋等の過去の薬剤情報閲覧の同意が得られず、聞き取り調査等を実施してもなお薬剤の適正使用が確保できないと薬剤師が判断した場合。
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