なぜ“あの大賀薬局”はDM1枚から新しいテクノロジーを導入したのか?  調剤薬局で導入進む“売上金を薬局外に持ち出さない術”

なぜ“あの大賀薬局”はDM1枚から新しいテクノロジーを導入したのか? 調剤薬局で導入進む“売上金を薬局外に持ち出さない術”

【2021.01.31配信】「薬剤戦師オーガマン」を生み出した企業として知られている大賀薬局(福岡県)。同社は社長宛に届いた1枚のDM(ダイレクトメール)をきっかけに、最近、新しいテクノロジーを一部の調剤薬局店舗に導入した。社員が売上金を薬局の外に持ち出さなくて済むものだ。なぜ、DMがきっかけで導入まで至ったのか。その背景には同社が進める組織活性化の取り組みがあった。社長の大賀崇浩氏に聞いた。


目にとまったDMの「売上金の入金作業」の文字

 福岡県で調剤薬局やドラッグストア109店舗を運営する大賀薬局。世界初ともいわれる薬剤師のヒーロー「薬剤戦師オーガマン」を生み出した企業として、ローカルチェーンでありながらその名は地元だけでなく全国に知れわたっている。決め台詞「薬飲んで、寝ろ。」は、SNS上でさまざまなシーンで活用されるなど拡散、メディアからも注目を集め、一般紙に報道されるようにもなった。
 
 今期の会社の目標は「現状を疑い、誰もやらないことをやれ」。失敗したとしても再チャレンジすればよいという理念で、社内の挑戦を推進している。
 
 そんな社内の雰囲気が、新しいテクノロジーを積極的に試してみようという動きとも無縁ではないだろう。
 
 2020年7月末ごろ、大賀社長宛に1枚のDMが届いた。「売上金の入金作業」「薬局業務効率化」「ものからひとへ」などの文字が目にとまった。前日のPDCA(Plan、Do、Check、Act)会議で、調剤薬局での売上金管理に課題感があるという話が現場から出たばかりだったからだ。
 同社は社内の課題を迅速に共有、解決するために、経営会議のほか、PDCA会議をハーフマンスリー(約2週間に1回)の頻度で開いているのだ。
 
 大賀社長はDMを受け取ったその日に、「調剤薬局運営の責任者にそのDMを手渡した。「もしかしたら課題解決に役立つものなのでは?」と。

大賀薬局社長の大賀崇浩氏。事業の種を社内から募集する「社内チャレンジ制度」を創設するなど、事業転換への備えに注力する

子どもたちに残薬問題を考えてもらうなど薬育を使命にする「薬剤戦師オーガマン」

現金取り扱いの「精神的負荷」と「業務コスト」

 それから、わずか1カ月後には、同社の九大病院東門前店には機器が導入されていた。
 
 売上金を最先端の技術を活用した機器に入れていくだけで、夜間金庫や金融機関、ATMに持っていく必要がなくなるのだ。「入金機」といわれる機器である。
 
 実際の機器は「Retail Safe」。決済装置専業メーカーの日本コンラックスが開発したもの。従来機よりも小型化を実現したのも特徴で、省スペース化が進む調剤薬局の潮流とも合致し、じわじわと調剤薬局での導入・検討が増加している機器だ。

 1週間に一度など、現金を取り扱う警備輸送会社が現金を回収、銀行に入金する。「Retail Safe」は警備輸送会社のサービスとセットで利用することができ、機器に入金した時点で保険の対象となる。大賀薬局は警備輸送会社「にしけい」と契約することで同サービスを活用している。

 導入した理由の一つを、同社営業本部調剤薬局第1事業部兼調剤薬局第2事業部事業部長補佐の加来喜代子氏は「働くスタッフの精神的なケア」と説明する。

 「キャッシュレスが進んでいるといわれていても、やはり現金で支払う患者さまは一定います。調剤薬局で何十万円という現金を入金のために持ち出す精神的な負担というものはあると思います。万が一にも盗難などがあったら、売上損失という以上にスタッフの精神的なケアが必要になると思います。そういった精神的なケアに関して、本部は何ができるのかを常に考えていることで、結果的には患者さまへの店舗での対応など、細やかな部分に影響すると考えています」(加来氏)。

 導入にあたっては同社の調剤薬局全店の「入金にかかっている作業コスト」を算出した。どの店舗で、どの程度導入コストと見合う効果が得られるのかも吟味した。

 具体的には、店舗によって入金先の金融機関やATMまでの距離やアクセスが異なる。その状況に応じて、実際に入金業務にどれぐらいの時間がかかっており、それを人件費に置き換えるとどのくらいのコストをかけているのか。それを導入コストと比較した。

 同社営業本部調剤薬局第1事業部兼調剤薬局第2事業部事業部長補佐の真鍋美恵氏は、「当社の調剤薬局、全店で入金業務の状況を調査し、時間を測りました。また、機器に入金する時間がオンされるのではとの懸念もありましたが、調べた結果、通常の業務と並行して行うことができ、別途、入金時間を取られることはないことも分かりました」(真鍋氏)。

 挑戦はするが、費用対効果を精査する同社の緻密さもうかがえる。

 「Retail Safe」の操作性も現場から評価がある。

 九大病院東門前店・薬剤師の矢野温子氏は、「覚えなければいけないことがほとんどなく、誰でもすぐ使える点がいいと思います。入金機にさえ入れてしまえば、保険の対象となり、精神的な安心感も。入金のタイミングが業務の繁忙とちょうど重なるので、入金業務の負荷が軽くなったのはとても嬉しく思います」と話す。

写真右から、同社営業本部調剤薬局第1事業部兼調剤薬局第2事業部事業部長補佐の加来喜代子氏、同 真鍋美恵氏、九大病院東門前店・薬剤師の矢野温子氏

コロナで「5年速くなった変化」に対応する

 大賀薬局のスタッフを取材してみて感じたのは、イキイキとしている姿だ。

 大賀社長発案の「オーガマン」を筆頭に、楽しむ文化が浸透しているのではないか。その“イキイキ”を組織としても活性化させるべく、大賀社長は2018年11月には「社内チャレンジ制度」を立ち上げ、新しいサービスや商品を社内から募った。その中から選ばれた事業の種は2019年から本格稼働している。例えば、「買いたいペット商材が店頭にない」と言ったペットを愛する社員を本部の関連カテゴリーのバイヤーにしたり、ファスティングに凝っている社員を本部の商品開発部員にするなど、人事も伴う組織改革につなげている。

 「新型コロナウイルス感染症で変化が5年は速くなったといわれています。どこに収益の柱があるかを含めて事業転換が起こり得ます。スピード感を持ってニューフォーマットの模索ができる組織改革を進めていくと同時に、DX(デジタルトランスフォーメーション)に関しては社長である私の直下管轄とし、新しいテクノロジーを取り込んでいきます」(大賀社長)。

 新しいテクノロジーによって業務を効率化し、事業転換のスピードを高めようとする薬局・ドラッグストアの意欲は、これまで以上に高まっている。

【株式会社 大賀薬局 概要】
●所在地:〒812-0011 福岡市博多区博多駅前3-9-1 大賀博多駅前ビル3F
●年商:26,064百万円(令和元年9月決算期現在)
●店舗数:109店舗(調剤薬局73店舗、調剤併設型ドラッグストア16店舗、ドラッグストア15店舗、化粧品専門店5店舗=令和2年6月現在)
(写真は九大病院東門前店、福岡県福岡市)

■「Retail Safe(小型入金機)」とは

<こんな課題を解決します>
1.人手不足で「銀行やコンビニに行く人がいない」「その時間が無駄だ」
2.大金を持って雑踏の中へ…。万が一、何かあったら。従業員の安心・安全のために
3.従来の入金機を設置するスペースがない

<こんな装置です>
警備輸送会社の売上金回収サービスを契約すれば小型入金機として、お客様の売上金管理をサポート


【株式会社 日本コンラックス 概要】
●所在地:本社・本社工場:
〒350-0214 埼玉県坂戸市千代田 5-3-8
●設立:1967年9月16日
●資本金:53億9832万7164円
●代表者:竹田 清昭
●従業員:163名 (2021年1月現在)
●事業内容:
・硬貨選別装置/紙幣識別装置ならびに自動販売機用IT機器の企画製造販売
・電子マネー関連機器の企画製造販売
・電子マネーに関するコンサルティング、ソリューション提供
●グループ Crane Co.
<お問い合わせ>
東京オフィス:
〒102-0083 東京都千代田区麹町 5-4 JPR 麹町ビル9F
(TEL) 03-3221-8466
https://www.conlux.co.jp/retailsafe/
メール:RetailSafe.Sales@CranePI.com