【対談】すでに起き始めている後発医薬品市場の変化

【対談】すでに起き始めている後発医薬品市場の変化

【2022.08.29配信】後発医薬品の供給不安の中でも、比較的安定した供給を続けている企業もある。その1つが明治グループの後発医薬品企業であるMeファルマだ。本稿では、同社社長の吉田優氏と、大手薬局チェーン企業であるI&Hの取締役である岩崎英毅氏の対談により、後発医薬品市場の今後を展望した。


Meファルマ 代表取締役社長 吉田優氏 × I&Hの取締役インキュベーション事業本部長 岩崎英毅氏

出荷状況に大きな支障を来たしていないMeファルマのビジネスモデルから言えること

 ――各社が相次いで限定出荷など出荷状況に制限をかける中で、Meファルマさんは出荷に制限をかけていない印象があります。

 吉田 厳密に全く出荷状況に制限をかけていないかというとそうではありませんが、当社は供給状況に大きな支障を来しているわけではないと言えると思います。

 ――それはなぜですか。

 吉田 当社なりに工夫をして現状を維持していることは事実ですが、一方で、当社は薬価が年々切り下がっていく市場をみて、どうしたら品質と安定供給を両立できるかを考え抜いてビジネスモデルを組み立てていたという背景があると思います。

 ――インドのメドライク社の買収ですね。

 吉田 はい。当社は2015年にインドの医薬品企業であるメドライク社を買収し現地に日本向けの製造ラインを建設し、日本市場に合わせた製造を担う人材育成も手掛けてきました。薬価が切り下げられるとコスト競争力が問われる時に、“自分たちで作る必要がある”という単純な結論に達したからです。
 後発医薬品は意外とどこかに造っていただいて、それを買って販売するということが少なくない。しかし、薬価が切り下がっていくことに対応するには、まず原価をコントロールする必要が出てくる。そして、自分たちで製造数量のコントロールができ、品質も自分たちの手で確保できなければいけないだろうと。そういったことを実現するために時間をかけて今のビジネスモデルをつくっていた。それが、今回の後発医薬品のさまざまな問題が起きた時に、薬局の皆様に「安定して製品を供給し続ける」という側面で貢献することにつながったのかなと思っています。
 実は、私自身がこのビジネスモデルの立ち上げに関わっており、当時はMeiji Seikaファルマ経営企画部の部長をしておりました。

薬局からみても採算ギリギリの後発医薬品の薬価は加算が必要だと思う

 ――薬局も後発医薬品で苦労されましたが、岩崎取締役は、後発医薬品の市場に対してどのように感じていますか。

 岩崎 患者さんにおいて、とてもよく使われているような後発医薬品がほとんど採算ギリギリ、もっと言えば採算割れで販売されている。その構図に目をつぶって、新しい収載品で帳尻を合わせてね、とやってきたのが後発医薬品市場だと思うのです。それでは継続性に支障を来たしてしまうことも必然だったのかもしれません。今後は、患者さんによっても重要な医薬品の薬価をどう考えるかということがとても重要になると思います。ある厚労省OBの方も提言されていましたが、そういう後発医薬品に対して、例えばOD錠などの製剤工夫などに対して、何らかの加算を付け直す必要があるのではないでしょうか。

 吉田 実際に、後発医薬品を成分数でみますと、3割超が「10円10銭以下」となっているのが現状です。残る7割に関しても、毎年の薬価改定によってこれまで以上のスピードで、「10円10銭以下」のグループに入っていってしまうのではないかと危機感を持っています。毎年改定に関しては、中間年度の下げ幅は本改定の半分ぐらいではないかといった当初予想もありました。しかし、蓋を開けたら私たちの予想よりも厳しい結果でした。

 岩崎 これも、別の厚労省OBの方の言葉で印象深かったものですが、「後発医薬品は、ある意味で大衆薬と呼んでもよいようなものではないか」と。本当にそうだと思います。生活習慣病薬など、患者さんによくつかわれているお薬のほとんどは後発医薬品ですね。
 
 吉田 当社の成分数は現在13成分だけなのですが、おっしゃった通り、患者さんによく使っていただいている生活習慣病領域などを中心にしております。なぜモノを切らすことなく安定供給が出来たかというと、この成分数が少なく少品種・大量生産を実施しているということも理由の1つだと思います。大手の後発医薬品企業さんは多品種で、相当苦しい思いをされていると思います。

 いま、市場で大きな課題となっているのは安定供給ですね。メーカーから言うと、増産ということになります。このご要望にお応えできるように当社も取り組みを強化しています。
 医薬品の製造は原薬の調達にはじまり、長期的な需要を予測して設備の運用、人員の配置など綿密に計画を立てていくわけです。ですから成分内シェアの高いメーカーの製品が市場から撤退してしまうと、自社の製造計画に大きく影響してしまうのです。
 ただ、当社はもともとメドライク社での大量生産を行う方針が既定路線でした。メドライク社の日本向け工場「Unit7」では、12億錠(2022年度、他社ブランド含む)を製造しました。その結果、増産体制に最大限取り組むことで多くの需要にお応えすることができ、当社が取り扱う13成分30品目の販売錠数は前年の1.6倍になりました。

 ――岩崎取締役は、薬局企業として後発医薬品の価値をどのように受け止めていますか。
 
 岩崎 現在は供給の問題などが生じていますが、大局では患者さんの経済的な負担軽減のお役に立てているということに変わりはないと思います。ひと昔前に比べれば、後発医薬品に対して患者さんの抵抗感は格段に下がったのも事実です。その面では、後発医薬品企業さんの社会へのアピールなどに感謝すべき面もあると思います。一方で、当社について考えてみると、後発医薬品市場が急速に伸びてきた過程の中で少しあぐらをかいていたような部分もあるのではないかと反省しています。今一度、市場のあるべき姿の中で薬局に何ができるのか、薬剤師が職能を生かして協力できることは何なのか、見つめ直したいと思っています。
 当社のことで恐縮ですが、当社は仲間になっていただいた薬局さんの看板は変えない、社長さんも変えない方針があります。薬剤師の方が社長を務められている薬局さんから仲間入りいただくことも多いので、そういった薬剤師職能を一緒に考えていける素地があるのではないかと自負しています。私も薬剤師ですので、地域での薬剤師の貢献を考えていきたいと思っています。

 吉田 薬剤師さんの職能はまだまだ拡大できますよね。実は私の妻も薬剤師なんです。

今後の後発医薬品市場の展望は?

 ――足下の状況をみて、今後の後発医薬品市場にどのようなビジョンがあり得るとお考えでしょうか?

 吉田 これは自分たちでできることと、そうではないことがあると思っていますけれど、自分たちにできないことでいうと、やはり薬価制度自体を持続性のあるものに組み直す必要はあると考えています。毎年改定というのは、やはり市場への影響が大きすぎると思います。新しい医薬品がたくさんあるという企業以外はどこも厳しくなってきています。
 メーカーとしては、ある程度、メーカーごとに作り分けをするようなことが必要なのではないかと私は思っています。これは程度によってはカルテルになってしまうという問題があるのですが、そういった問題に触れない、何らかの形でそういう方向に持っていくべきではないかと思っています。少品種・大量生産だと、やはりコストは下がっていくのです。
 それから、これは当社も含めてのことですが、まだ規模の小さな会社が多いかもしれません。薬局さんもいろいろ形態が変わっていくと思いますが、メーカーも同じだと思います。最近は新規追補品に参入するメーカー数も割と少なめになっていますね。全体の供給量がかなりタイトな中ですから、その余力があるメーカーは限られてきているのだと思います。そういった調整が徐々に働いてきているのではないでしょうか。
 当社もさきほど申し上げたモデルを維持しながら徐々に成分数を増やしていく計画です。その時に、当社が製造している医薬品を他社に提供していくとか、そういったことが増えていくのではないかと思っています。
 
 岩崎 後発医薬品の問題もそうですが、自由経済と統制経済の狭間で問題がいくつか出てきていますよね。医薬品は生命に関わるものなので、例えば基礎的医薬品など、儲からないけれど、絶対に社会に必要なものがあるわけです。そういった医薬品をどうやって守っていくのかは、薬局にとっても重要な問題だと捉えています。そういう医薬品が、採算のために品質が落ちたり、供給不安になってはいけないので。

 後発医薬品の今回の問題においても、一部企業の不祥事や制度的な問題はあったにせよ、薬局・薬剤師が医薬品供給の有事において何ができるのかは社会にアピールする必要があると思っています。地域の供給情報を把握したり、処方設計の提案もできる薬剤師だからこそ、供給情報を基に代替薬の提案をすることも大切な役割だと思っています。そういった薬局・薬剤師の役割発揮を通してできる限り患者さんの服薬に問題が大きくならないよう貢献し、ひいては今後の後発医薬品の信頼回復にもご協力していきたいと思います。

 ――分かりました。ありがとうございました。

Meファルマ株式会社 代表取締役社長
吉田 優氏 (よしだ・まさる)
経歴:
1984年明治製菓入社(医薬品営業職)に入社
2011年医薬営業本部医薬情報管理部長、2013年医薬営業本部業務管理部長を経て
2015年経営企画部長に就任し、Meファルマのビジネスモデルを立ち上げる。
2017年5月より現職

I&H 取締役 インキュベーション事業本部
岩崎英毅氏(いわさき・ひでき)
経歴:
 調剤薬局を経営する両親のもとに次男として生まれる。
 大学卒業後に入社した第一三共株式会社で約3年半勤務した後、両親の経営する株式会社阪神調剤薬局へ入社。2012年12月に取締役に就任。
 その後、吸収合併を経て、2019年にI&H株式会社に社名変更。現在は取締役とインキュベーション事業本部長を兼任し、グループ会社である株式会社エクスメディカルと、グローバル・エイチ株式会社の代表取締役も務めている。薬剤師。