【改めて知りたいホルモン補充療法】フェムテック座談会VOL.3/ライフステージで必要なソリューション提案を

【改めて知りたいホルモン補充療法】フェムテック座談会VOL.3/ライフステージで必要なソリューション提案を

【2021.10.18配信】ホルモン補充療法を取り入れる女性が、海外に比較すると極めて少ないのが日本だ。ホルモン補充療法は医療領域だが、背景にあるのは「女性の健康はホルモンに大きく影響を受ける」という認識の低さではないだろうか。このことはドラッグストアや薬局の店頭からも伝えていく必要がある。長く女性の包括的な支援に取り組んでこられた産婦人科医の対馬ルリ子氏をお招きし、業界関係者とともに「店頭からのフェムテック市場育成」を考える座談会を開催した。


【座談会】
医療法人社団ウィミンズ・ウェルネス 理事長 対馬ルリ子氏
大木 C&V事業部 事業部長 市川恭子氏
大木 健康食品事業(薬剤師) 滝澤理恵氏
ドラビズon-line 編集部 編集長 菅原幸子

(写真左からドラビズon-line菅原、ウィミンズ・ウェルネス対馬ルリ子氏、大木・市川氏、大木・滝澤氏)

女性はホルモンによってライフステージが移り変わる

 菅原 月経もそうですが、妊娠・出産、更年期と、女性の一生はホルモンに大きく影響されるものなんだと改めて感じています。
 そう考えると、急激にホルモンが減少する更年期においてホルモンを補充するというのは理屈に合っているような気がしますが、日本での普及率はとても低いですよね。

 対馬 ホルモン補充療法(HRT)はオーストラリアでは7割の女性が取り入れていると言われているのに対して、日本の普及率は数パーセントと、とても低いです。
 
 更年期は閉経をはさんだ約10年間なのですが、この年代は一番仕事をしたいし、それから介護も抱え始めるし、子供の環境の変化とか、たくさんやることがある世代なのに、更年期障害のためにだるいとか、気分が不安定だとか、眠れないとか、多くの女性が本当にもったいない状態になっているんですよね。ここは、産婦人科医がちゃんと応援団になれていないと思っています。

 菅原 日本はどちらかというと、「やった効果」より「やった副作用」に目がいきがちな傾向が根底にはあると思っていますが、一方で、ホルモン補充療法における医師への報酬が低いことは普及率に関係ありますか。

 対馬 否定はできないですよね。ホルモン補充療法開始にはとても時間がかかるのですが、報酬は300点ぐらいなので。まずはホルモンとは何かから話して、それから女性の体の仕組み、月経の仕組み、排卵がなくなってホルモンが低下していくと体がどういうふうに変わっていって、なぜ更年期の症状が出るのか、一人一人に説明するためにとても時間がかかります。加えて、がんになるリスクはとか、太るんですか、とか不安がいっぱいあるでしょう。それで、たくさん質問されるので初診は一人に約1時間かかるんですよ。それで300点とかですから。私は更年期管理料みたいなものをつくってほしいと言っているんです。

 菅原 絶対に作った方がいいですね。

 対馬 以前、フランスの企業の方が来られて、「なぜ日本の女性はホルモン補充療法を行わないのか」と聞かれたのです。逆に私は「なぜフランスの女性はホルモン補充療法を行うのか」と聞き返しました。答えは、「だって当たり前でしょ、ずっと相談しているかかりつけの産婦人科の先生から言われているから」と。これにはまいりました。フランスでは月経がきた頃から産婦人科に相談する環境があるのですね。フランスではかかりつけの産婦人科医を登録する制度があると紹介している書籍もあります。

 菅原 日本もそうなるといいと思います。制度的にも産婦人科のかかりつけを持つような制度で誘導していくといいと思います。とても差し出がましいですが、産婦人科医の方の収入構造も今後、変わっていくような気がします。日常的な相談の比率が高まるといいなと思いました。一方で、そうした長期的なビジョンを考えつつも、今、足下でドラッグストアや薬局ができることは何かなと。対馬先生から何かアドバイスはありませんでしょうか。

 対馬 女性の健康といった時に、男性と何が違うかというと、ホルモンによってライフステージがどんどん変わっていくということなんです。思春期、成熟期、更年期、老年期と移っていきます。このライフステージに応じた提案をドラッグストアや薬局さんからしていただくといいのではないかと思います。
 
 世代によって抱えている疾患リスクは違うのです。その世代に応じたソリューションを提案できるといいのではないでしょうか。例えば「まるのうち保健室」では、年代別の疾患リスクと望まれるソリューションの事例などをレポートでまとめていますので、参考になるのではないでしょうか。

働く女性の健やかな暮らしをサポートする「まるのうち保健室」のプロジェクトでは、女性のキャリアとライフステージ別疫病リスク、さらにはソリューション提案をまとめている
【参考URL:https://shokumaru.jp/hokenshitsu/

選択肢があることが女性のエンパワーメントにつながる

 対馬 自分の世代の疾患リスクについて知っておくと、「ああ、こういうことを気をつけておこう」とか、やっぱり予防的な視野ができるんですよね。そして、それが例えば出産の安全になったり、自分が起こりやすい病気を予防して早く発見するとか、何か病気を持っていてもそれとちゃんと付き合えるものになったりします。悲しい思いをしなくてすみます。

 菅原 シンプルに疑問なのですが、先生のクリニックではホルモン補充療法が行えるのに、なぜサプリメントなども揃えていらっしゃるのですか。

 対馬 過去の疾患歴などでホルモン補充療法が使えない方もいます。それから、使えないわけではなくても、ホルモン補充療法以外にも選択肢があって、「あなたには他にもできることがある」という情報がとても大事だと思っています。
 そうすると、女性は自尊心を取り戻し、エンパワーメントされます。そのあとの情報の入り方も全然変わってきますね。自分で選んで行動することによってヘルスリテラシーが上がるのです。「じゃあ、次はこうしてみよう」とか意欲が出てくるのです。
 
 市川 対馬先生がおっしゃった「エンパワーメント」こそ、AIではできない、人がやるべき仕事だと思いました。「みんな」ではなくて、「あなた」が主語であることで、とても元気付けられますよね。そういう仕事にドラッグストアや薬局も比重を置いていくことができればいいなと感じました。
 一方で、自分のことを考えてみると、近所のドラッグストアでどこまでプライベートなことが話せるかなと考えます。地域にお住まいの方もいますから。そう考えると、何か資格を持っている専門家という立場があって、立場としても守秘義務があるようなイメージがドラッグストアにも持っていただけると相談もしやすくなるのかなと思いました。場合によっては、そういう専門家とつなぐ場所がドラッグストアにあってもいいかもしれません。
 
 滝澤 たしかに、「普段自分がよく足を運ぶ家の近所のドラッグストアでプライベートな相談ができる?」と聞かれたら、「ちょっと難しいかなぁ」と正直思いますね。
 でも、プライベートなことだからこそ、さまざまな選択肢を知っておくことが必要な気がします。みなさまの生活を維持する、豊かにするための場所として、ドラッグストアで人が介在することで、つなげる流れをつくれたらいいですね。

店頭ではカテゴリーにすることで気づきを提供できる

 菅原 対馬先生から「ライフステージごとの提案を」というアドバイスがありましたが、大木さんのお取り組みはいかがですか。

 市川 いま、フェムテックという言葉ができて盛り上がりを見せていますが、「命の母」など、関連する商品は昔からありました。そういった商品をカテゴリーとしてくくることで、店頭からの情報発信を強めたり、お客様に気づきをご提供するというのが私たち卸企業の仕事かなと思っています。店頭とお客様の悩みの接点をどうつなげけるかですね。カテゴリーでくくらないと、ただの「命の母」のままですし、ただの「エストロリッチ」のままだと思っているのです。
 店頭でカテゴリーで商品をくくることで、「女性の悩みだ」「私もだ」と気付いていただける機会が増えると思っています。それが最終的に商品につながればいいなと思っています。
 過去にも当社のカテゴリー提案商談会で、例えば「夫婦だけの世帯」ですとか、世帯の特徴別の商品提案というのをしたことがあります。女性のホルモンの変化を軸にしたカテゴリーもどう伝えるかは重要なテーマだと思っています。
 20代の月経困難症や40代の更年期など、年代によって訴えるポイントが違ってきますね。当社ではホルモンに絡めて、美肌などの訴求点も可能かと思っています。美肌だけでなく、デリケートゾーン対策、エイジングケアなどにも広げられるカテゴリーですね。
 情報をお伝えする接点についても、最近はドラッグストア企業さんはDXが進んでいますので、店頭では商品とのつながりをつくって、「もっとしっかり情報を読み込みたい」と思った方に対してはドラッグストアさんのアプリ上でつなげるなど、そういうことができたらいいねとお話はしています。

 滝澤 健康食品事業部としても、フェムテック関連は2025年には5兆円の市場になると指摘されているなど、経済的な指標をお伝えしながら、店頭での潜在需要をお伝えできたらと考えています。社会の問題として捉えられ始めていることも含めて、ポテンシャルが大きな市場だと考えています。
フェムテック市場は「月経」「妊娠・産後ケア」「更年期」のほか、「メンタルヘルス」など非常に幅広いのですが、当社としては、特に更年期領域に着目しており、具体的な商品としては「エストロリッチ」をお勧めします。更年期カテゴリーの健康食品市場はエクオール成分市場を中心に足下でも非常に伸びている商品で、ここに当社の「エストロリッチ」なども加えて店頭でカテゴリーをつくらせていただくことで、市場の育成にもお役に立てるのではないかと思っています。

 市川 どんな人が更年期に悩む可能性が高いのか、そんなデータが次第に出てくるようになるといいなと思っています。ここはなかなか調査が難しいところでもあるのですが。過去のことは人は忘れてしまいがちなので。
 当社が以前から提唱しています内からと外から提案する「内外美容」においても、中からは「エストロリッチ」をご提案し、外からは美容クリームなどを提案することができると思っています。
 
 滝澤 いまの健康情報のデータ解析の流れもそうですし、企業さんは研究し出しているでしょうね。本当に必要としていらっしゃる方の実像がわかるととてもよいので、これからに期待しています。
 
 菅原 エクオール市場はなぜ急成長しているのですか。
 
 滝澤 それこそ、「言ってはいけない」と思っていた悩みと、商品が結びついたのではないでしょうか。対馬先生のお話もそうですが、この領域の情報は知れば知るほど、私自身、とても気になるカテゴリーです。
 
 対馬 今、「言ってはいけない」と思っていた女性の悩みが、どんどん広がっていって、例えば「生理の貧困」など、いろいろな形で取り上げられるようになりましたね。
 女性の健康問題を社会問題として認識して、それを解決すべく経済が動いていく。この動きをもっと育てていきたいですね。
 ドラッグストアや薬局は、最も身近な相談場所だと思います。一緒にできることがあったら、どんどんご一緒したいと思います。
 
 市川 ありがとうございました。
 
 滝澤 ありがとうございました。

<編集部より>全3回にわたってお伝えしてきた「フェムテック座談会」は今回が最終回です。VOL.1よりたくさんの反響をいただき、ありがとうございました。

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