【店頭からフェムテック市場を育てよう!】フェムテック座談会VOL.1/経済・市場と絡めることは推進力になる

【店頭からフェムテック市場を育てよう!】フェムテック座談会VOL.1/経済・市場と絡めることは推進力になる

【2021.10.04配信】「フェムテック」という言葉をご存知だろうか? Female(女性)とTechnology(テクノロジー)をかけあわせた造語で、女性が抱える身体的な悩みをテクノロジーで解決することを指す。関連議連もできるなど、政治的にも経済的にも盛り上がりをみせている。この動きを単なるブームではなく、ドラッグストアや薬局の店頭が市場として育てていくことで、女性の健康支援にもつながると考えられる。長く女性の包括的な支援に取り組んでこられた産婦人科医の対馬ルリ子氏をお招きし、業界関係者とともに「店頭からのフェムテック市場育成」を考える座談会を開催した。


【座談会】
医療法人社団ウィミンズ・ウェルネス 理事長 対馬ルリ子氏
大木 C&V事業部 事業部長 市川恭子氏
大木 健康食品事業(薬剤師) 滝澤理恵氏
ドラビズon-line 編集部 編集長 菅原幸子

(サムネイル写真)左からドラビズon-line菅原、ウィミンズ・ウェルネス対馬氏、大木・市川氏、大木・滝澤氏

「女性の悩み」が「社会の問題」と捉えられるように

 菅原 今日は対馬先生にお会いできてとても光栄です。先生は産婦人科医としての日常的な診察以外に、2003年にはNPO法人「女性医療ネットワーク」を設立されたり、2020年8月には日本女性財団の立ち上げに関わり代表理事に就任されるなど、ずっと女性の包括的な支援の活動をされてこられました。先生からみて、ここ最近の女性の健康支援に関する社会の変化をどのように感じていらっしゃいますか。

 対馬 女性の健康支援をめぐる歴史はとても長いのですけれど、ここ最近の動きだけに限っていうと、一つは経産省が提唱した健康経営の概念の広がりが大きいですね。社員が健康であることは会社の成長、売上にもつながるという認識が広がりました。この健康経営の理念の中に、女性の健康支援を取り入れたのです。女性特有の月経随伴症状による労働損失は4911億円と算出し、女性が働きやすい環境が生産性向上や業績向上に結びつくと提唱しました。
 女性の月経とか、更年期とか、誰もが経験するであろう不快や不便に敏感になって解決していこうというふうに意識が変わりました。女性のこうした悩みが個人個人のことではなくて、社会の問題だと捉えられるようになったことが大きいですね。
 それから、これは企業の成長という経済面と関連すること、さらにはフェムテック市場という市場として捉えられるようになったことです。
 社会進出だけではなくて、女性は地域形成、社会のあり方、全てのサービス、消費活動においても主体者は女性なんですね。そのことが意識されるようになってきました。

 菅原 市場、つまり「儲かりますよ」ということも、一つの促進力になるんですね。

 対馬 それでいいと思います。そのことが女性の健康支援につながっていくのですから。

 市川 経済を回していく観点はとても大切ですよね。そうでないと、国の政策などは現場に伝わるまでにとても時間がかかるような気がしています。そうではなくて、より広い人に早く伝えるために、経済、市場をつくっていくことは大切な手法の一つだと思います。
 市場ができてくると、女性だけではなくて、男性を巻き込む近道のようにも思います。
 例えば育児中の時短勤務の話も、国が制度をつくりましたといっても、働いている女性は相当後ろ髪を引かれながら実践していると思うのです。「申し訳ありません、先に帰ります」という申し訳ない気持ちなのが本当のところですよね。それが経済も回る、健康経営で会社も成長するという視点が加われば進みやすくなると思います。

経産省は女性が働きやすい環境の整備が生産性向上や業績向上に結びつくと提唱
(出典:経産省資料)

女性の健康を包括的に支援する視点が必要

 滝澤 本当にそうだと思います。いま、子供の数も減ってきて、同時に女性の働く場もしっかりつくっていかないといけないという時に、女性の健康支援によって経済も成長する。女性個人の悩みの話ではないのですね。

 対馬 女性医療ネットワークの活動をして7年になるのですが、設立当初は性教育とか避妊とか、流産、中絶のような暗い話は避けたい、話さないでくださいという雰囲気があったのですけれど、それも変わってきましたね。女性の健康を語る時、こうしたことも全てつながっているんですね。包括的な支援という捉え方が必要なんです。

 市川 「エストロリッチ」の商談をしていても、「いい商品ですね、どう売りましょうか」と、女性の健康の理解というよりも「一つの商品」という見方が強いと感じます。対馬先生のおっしゃった「女性の包括的な健康支援への理解」ということを、当社としても少しでも伝えていけたらいいですね。
 あまり性差を強調することは避けてきたところがあるのですが、やはり男性のバイヤーさんと女性のバイヤーさんの受け止め方というのは少し違っていて、女性は「理解」が最初にあるような気がするのですね。

 対馬 その通りだと思います。女性と男性では受け止め方は違うと思いますよ。「なぜ必要なのか」が分かると女性は行動に移しやすいですね。

 菅原 オンラインでのセミナーが急速に進展しているので、ドラッグストアから情報発信によって女性の健康の全体像を伝えられるような取り組みが出てきてもいいと思います。

 市川 出てきていいと思いますし、実際にメーカーさんの中にもフォローアップをする企業さんも出てきていますよね。治療アプリが出てくる時代なので、商品だけではなく、情報で健康を支えるようなアプローチは増えてくると思います。

 滝澤 何か困りごとがあった時に、仕事などで受診までは躊躇してしまう人は多いと思うので、そういう人のちょっとしたアドバイスができる場所があるといいですね。

 菅原 その場合はマネタイズはどうなるんですかね。

 市川 チャット画面に商品の広告を打つか、ポケットマネーで相談にお金を払うかですね。必要としている人をしっかりスクリーニングして届けるということに、投資する企業さんはたくさんいると思います。

 滝澤 認知症に備える民間保険なども、発症による本人・家族の負担を示して、「それなら入っておこう」というようなところがあるので、例えば女性の健康支援であれば、その相談などによって、その後の健康被害による負担と比較したら、アドバイスにお金を支払おうとなるかもしれませんね。

 市川 それから、どうなのかな、と思っているのは、「女性が、女性が」ということに対して、「男性だって更年期障害はあるんですよ」という声もお聞きします。「男性、女性」ということでもなくて、「全体の中のまずは女性を支援するフェムテックを」という形の方がいいのでしょうか。

 対馬 いま、特定健診がありますよね。メタボリックとか生活習慣病というのは、ほとんど中高年の男性の問題であって、働いている女性の世代は月経・妊娠・出産という変化の方がずっと大きいんです。だから私は特定健診の議論の時に、「男性を支援するなら、なぜ女性の支援も入れないのか」とずっと反対していたんです。その時に言われたのが「まあまあ、まずは生活習慣病で困っている人がいるのも事実だから、まずは男性の健康支援から」ということです。そのまま何年経っても女性の健康支援は置き去りになっていると感じています。

 市川 そうなんですね。今度は女性の番という順番なんですね。

女性の共感が広がったSNSの存在も大きい

 菅原 お話を聞いていて、やっぱり女性は遠慮をしてしまう、「自分が自分が」ということに遠慮をしてしまう傾向があるのかなと感じましたね。私も市川さんの感覚に似ていて、会社で働いている時に「自分が女性である」ということを前面に出してはいけない、と感じてましたね。

 市川 そうです! 私も全く同じように感じています!

 菅原 なぜですかね。

 市川 なぜでしょう・・・。

 菅原 (笑)やっぱり会社は働き手を求めているのだから、その意味で男性も女性も同じように働き手の存在でいなければいけないという感覚があったと思います。けれど、対馬先生のお話を聞いていると、出産など女性特有の健康問題はたしかにあって、性差を強調するということではなくて、違いを認めていくということは必要なのかなと思いました。

 滝澤 時代背景もあると思いますね。自分たちが見てきた親が、男性は外で働いて、女性は家の中のことをやる。それは必須である上に、女性が働くということがオンされてしまった。だから、「当たり前」であることに不満などは言ってはいけないという感覚があるのではないでしょうか。

 菅原 女性が社会進出し始めて、バリバリ働く人も出てきて、その次の時代は女性の違いをどう認め合いつつ働くかというステージに変わってきているのかもしれませんね。特に女性は「自分のため」というのは苦手なのですが、「次の世代のため」となると、俄然、力が湧いてくると感じているのです。だから、今、働いている女性は、「自分のため」ではなくて、「自分の子供達の世代」「次の世代」のために、自分自身の健康問題に向き合って、考えていくと、ぐっと取り組みが進むような気がします。

 対馬 女性は「してもいい」という教育がされていないですね。「せねばならない」がとても強いのです。「同じように働かなければいけない」「お迎えにいかなければいけない」。「せねばならない」ばかりで、「してもいい」ということが伝えられてこなかったんですね。
 けれど、ここでSNSの存在も大きいのです。「私だけの問題だ」と思っていた人たちがSNSでつぶやいたら、「私も」「私も」と多くの共感を集めました。そのことで、「自分だけではないんだ」という理解が女性の中でも進んだんですね。

 市川 女性は共感を求めるんですよね。男性は解決を求めるけれど、女性は必ずしも解決を求めているわけではなくて、「分かってもらう」、そのこと自体がもうゴールだったりするわけです。これからの時代は、SNSなどで、共感を得られるようなアプローチがとても大切になってくるように感じています。

 対馬 ドラッグストアの決定権のある立場に女性がなるべきですね。そしたら、劇的に変わりますよ。やっぱり女性と男性の視点は違います。

 菅原 面白い発想ですね。

 市川 ドラッグストアもまだまだ男性社会だとは思います。やはり売り場となると売上の数字を達成しなければならないのでそういう面では男性の方が適性があるのかなと思います。女性は感覚的な、まさに共感とかそういった部分で会社のポジションとして上がっていく例が多いように思います。人材教育とかのポジションでは登用されていることが多い気がします。数字が求められる売り場に関してのポジションで、女性がどこまで踏ん張り切れるかというと難しいのかもしれません。しかし、最近では女性の責任者の方も増えていますね。10年前とは変わってきていると思います。同じ土俵で比べるのではなく、売り場に違う視点を取り入れる視点からも女性を登用していくというのはアリだと思いますね。

 対馬 私がクリニックを開業したときに、かかりつけの美容院さんみたいになりたいなと思ったのです。美容院は3ヶ月に1回など、定期的にメンテナンスに行きますよね。ドラッグストアや薬局も健康のメンテナンスのために相談にちょこちょこ来るような、そんなふうな場所になっていただけたら良いと思います。


<編集部より>次回、「フェムテック座談会VOL.2」は緊急避妊薬に焦点を当てて10月11日(月)に配信いたします。

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